オーストラリアで薬剤師

オーストラリア薬剤師の日常&ローフォドマップライフについて綴っています♪ 

オーストラリア薬剤師の日常生活、薬・健康情報、Low FODMAP dietなどについて綴っています♪

精神系

前回の薬物中毒の治療~ORT~の続きです。

今回は症状にスポットライトを当ててみます。少しだけ英語の単語も入れてみます薬学生の方や医療英語を勉強している方に参考になると嬉しいです。

ストリートドラッグやオピオイド系の薬は、私たちの体にどんな変化を及ぼすのでしょうか?

以下は、『正常な何も問題ない人の体内にオピオイドが入ることで起こる症状』です;
・初期に出る高揚感、その後の無気力感(euphoria→apathy)
・不機嫌になる(dysphoria)
・精神運動性激越/遅滞 (Psychomotor agitation or retardation)・・・不安によって体が過剰に動いたり、逆に動きが遅くなること
・判断障害 (impairment judgment)

 これらはオピオイドを使用した直後に起こりますが、実際とても分かりにくい
 なので、まずは目を見ます。

瞳孔収縮 (pupillary constriction)

 これが一番の特徴です。ただし、他の薬でも瞳孔収縮が見られる場合もあるため、それに加えて以下3つのうち1つ以上当てはまる場合にオピオイドが入っている状態と判断します。
・眠気、昏睡 (drowsiness or coma)
・ろれつが回らない (slurred speech)
・注意障害や記憶障害 (impairment in attention or memory)

中毒状態の患者さんを「〇〇(someone) is intoxicated」と言います。
薬だけでなく、アルコールで酔っている場合も使えるフレーズです。

患者さんがintoxicatedの場合、薬局でのメサドンやブプレノルフィンの投与はできません
結局、メサドンもブプレノルフィンも、ストリートドラッグと似ていますので、危険になるだけです。

その場合、患者さんに「離脱症状」が起きるまで投与を控えなければなりません。

「離脱症状」を英語で「Withdrawal Symptoms」と言います。
依存している患者さんの場合、体内で薬の量が少なくなると離脱症状が起きます。

オピオイドの離脱症状はこんな感じです;
・不機嫌になる(dysphoric mood)
・吐き気 (nausea or vomiting)
・筋肉痛(muscle pain)
・流涙、鼻水(lacrimation or rhinorrhoea)
・瞳孔散大(pupillary dialation)
・立毛 (piloerection)
・発汗(sweating)
・あくび(yawning)
・発熱 (fever)
・不眠 (insomnia)

このうち3つ以上あり、日常に影響を及ぼしている場合に「離脱症状が出ている」と判断します。この時にメサドンやブプレノルフィンの投与をするのが正解です。

オピオイド系の薬は依存する場合があります。ただし、がんの痛み止めとして使用する場合は、依存を心配する必要はありませんオピオイド系の薬(モルヒネ等)を早めに投与する方がQOLが上がりますので、そのあたりはこの記事の内容と混合しないようにご注意くださいね

オーストラリアには、ORT(Opioid Replacement Program)といって、薬物中毒の患者さんのための治療プログラムがあります。

ヘロインやモルヒネを使用する代わりに、メサドンやブプレノルフィンという少し違うタイプの薬物中毒治療用のオピオイドを使用し、なるべく日常生活を送れるようにするための支援プログラムです。

違法薬物を使用することによって、
・死亡の危険性
・犯罪が増える危険性
・注射による感染症が広がる危険性

など様々な影響があります。
もちろん、オーストラリアで違法薬物の保持・使用・売買は禁止されています

このプログラムによって、それらのリスクを下げ、さらに患者さんの健康の向上にもつながります。オーストラリア政府がこのORTを推奨するのにはそのような背景があります。

ORTを行うには・・・
まず専門のドクターが患者さんの状態を把握し、ORTが必要だと判断した場合に行なわれます。
もちろん、street drugと言われる違法薬物によるケースもありますが、術後や慢性痛の痛み止めを長期間服用していたために依存してしまう場合もあります
なので「中毒」という「addiction」ではなく、
「substance use disorder」という言葉を使用しなければなりません。

ORTに使用する薬は二つ、
・methadone(メサドン)
・buprenorphine(ブプレノルフィン)です。

Methadone(メサドン)
オピオイドアゴニスト。(モルヒネと似ています。)
効き始めるのに多少時間がかかりますが半減期が長いのが特徴。
経口吸収が良好なので、シロップ剤が使用されます。
「methadone」の画像検索結果

Buprenorphine(ブプレノルフィン)
オピオイド部分アゴニスト。(=天井効果:ceiling effectがあるため、大量摂取した場合メサドンよりも安全性が高いです。)
これは舌下フィルムです。ブプレノルフィンにナロキソン(オピオイドアンタゴニスト)が配合されています。アゴニスト+アンタゴニスト=効果が打ち消される??と思う方もいらっしゃいますが、これには訳があります。

「suboxone」の画像検索結果

それは静脈注射を避けるためです。
フィルムを溶かして静脈注射しようとすると、配合されているナロキソンによってオピオイド受容体がブロックされます。なので静脈注射をすると、効果が得られず気分が悪くなります。ですが舌下投与だとナロキソンはほとんど吸収されないようになっているんです舌下投与すれば、ブプレノルフィンがだけが効果を発揮してくれます。

ORTでメサドンやブプレノルフィンを投与する際、薬剤師はその患者さんがきちんと飲み込むまで orフィルムが溶けるまで監視しなければなりません。これは、もしもシロップやフィルムをポケットに入れて持ち帰り、ブラックマーケットで売買するような犯罪を防ぐためです。(実際そんなことがありえるのか、どうやったら私たちの目をごまかすことができるのかは正直わかりませんが、現実起こるそうです)もちろんちゃんとした患者さんもいますよ!一見、ORTやっているなんてわからない方もいます。
日本人の感覚では理解できないことも多々ありえるのが海外。私が現在働いている薬局で担当しているORTの患者さんはとても温厚ですが、やはり会話したり投薬する時にはとても緊張します何ともないと思って使った言葉で、もしかしたら相手を刺激してしまう可能性もありますので・・・。最悪の事態を懸念しての体制をとることは必要ですよね。

ORTの期間は人それぞれ。決まりはありませんが、長ければ長いほど成功率が高いと言われています。




さてさて今日は統合失調症の薬についてお話ししようと思います最近学ぶことが多いのでシェアさせてくださいっ

薬学生なら絶対習うクロザピン。
これは非定型抗精神病薬で、特に治療抵抗性の統合失調症に用いられます。

ちなみに、統合失調症はschizophrenia (スキソフリーニア)、抗精神病薬はanti-psychotics(アンティ・サイティックス)と言います。

陰性症状にも陽性症状にも効果があり、しかも錐体外路症状が出にくいという利点の多いクロザピン。

しかし白血球減少や好中球減少という重篤な副作用が発生する可能性もあるため、定期的な血液検査が必須です。白血球や好中球減少が起こると感染症のリスクが増大します。ただの風邪も、風邪では済まない重大な感染症に発展してしまうから注意しなければいけません。

このクロザピン、日本では2009年に承認されました。海外ではその優れた治療効果によってもっと前から使われているようです。私はこれまで日本でも、オーストラリアでも見る機会がなかったのですが、新しい職場が様々な患者さんが来る薬局で、クロザピンを服用している患者さんも数名持っています。

ですがクロザピンを調剤するためには色々なルールがあるんです。
まず、特定の機関に私の名前を登録しないといけません。

ということで先日、職場にクロザピン・コーディネーターのケリーを呼んでクロザピン・トレーニングを受けました。
IMG_20190502_214244

先ほど書いたように、クロザピンは定期的な血液検査が必要です。患者さんは、血液検査を受けてからドクターを予約し、白血球と好中球が通常範囲内であることが確認できてからドクターから処方箋を受け取ります。薬剤師はその血液検査結果を確認してからしか調剤できません。

通常、クロザピンを開始して最初の18週間は、毎週血液検査が必要。ですのでクロザピンは病院の薬局で処方されます。(病院で検査→処方なので管理しやすいですよね。)
しかし18週以降、血液検査に問題が無ければ、月一の検査のみで街の調剤薬局で受け取ることができます。その場合、薬局薬剤師は調剤する前に、患者さんの血液検査結果を確認する必要があります。

毎週病院に行かなくても良くなるため、患者さんのQOLは格段に向上するはず。
日本だったら検査も処方箋もらうのも病院で全部できるかもしれません。ですがオーストラリアでは、血液検査のために予約して、結果が出たら病院に予約して、、、、とにかく工程が多いんです。だから患者さんの負担も多い。薬剤師も病院に検査結果を確認して・・・とかなんとかやっていると、もう大変です。

その工程をスムーズにしましょうということで、クロザピンをモニターするオンラインシステムがあります。患者さん自身はもちろん、処方するドクターも調剤する薬剤師も、センターに登録されている必要があります。このシステムのおかげで、血液検査結果が登録者から常にアクセス可能になります。患者さんの血液検査結果とクロザピンの処方内容が一括して見ることができる、画期的なシステムなのです。

血液検査結果はドクターが入力する場合もあれば、薬剤師が結果を受け取って入力する場合もあります。処方箋を受け取ってから、そのオンラインシステムにアクセスし、
✅血液検査が行われたこと
✅白血球・好中球が基準値以内であること

を確認してから、調剤することができます。
その際に薬剤師は用量用法もしっかりシステムに記録します。

さらに血液検査実施日と処方箋が書かれた日、そして調剤する日がすべて48時間以内でなければ、クロザピンは調剤してはいけません。それ以上だと、白血球・好中球の結果が変わってしまっているかもしれないため、再検査が必要になります。

今回ケリーからクロザピンを調剤するまでのステップについてレクチャーを受け、オーストラリアのクロザピン・センターという機関に登録されました。これで私もクロザピンを調剤できるようになりました!日本もオンラインシステムを使用していると思いますが、街の薬局でクロザピンを服用している患者さんと接する機会はあるのでしょうか?ご存知の方教えてください。

ちなみにanti-psychoticsは体重増加、便秘(かなり重篤になるケースも)、眠気などの副作用もあります。血糖値も上げてしまう可能性があるので体重管理はしっかり行うことが大切です
さらにタバコやカフェインと相互作用してしまう性質も持っているというクロザピン、なかなか奥が深いです






↑このページのトップヘ